2023年4月17日月曜日

「シン・仮面ライダー」 ドキュメントと二度目鑑賞

 「シン・エヴァンゲリオン」に引き続き「シン仮面ライダー」でもNHKによる密着ドキュメンタリーが製作された。 内容が衝撃を与えるもので、本編の物足りなさが何故こうなったのかの答え合わせのようでもあり、ネットを中心に話題を振りまいている。

  以下はドキュメントを観て印象的だった庵野監督の言葉。


「コンテは思考を止める。
 自分からイメージを出さない。あとは役者次第。
 イメージ通りにしたければアニメで表現するし、実写は役者がすべて
 実写映画の中で本物が出来るのは役者だけ」

「圧倒的に創意工夫が足りない。意外性が足りない。
 練習を重ねると段取りになる。頭の中は殺陣で一杯になっている。
 アクションの人は型にはまる。本人にやってもらいたい」

「ショッカーに気概が足りない。本郷を殺そうとしない。
 技を決めようという意識。相手を殺そうという意識。
 そこにドラマが入ると変わる」

「広い場所で撮ってもいつもと同じになってしまう。
 殺陣に限界があるのでロケーションで勝負するしかない」


 役者に 【演技をさせない】 ことで、緊張感と新鮮な感覚を生んだ「シン・ゴジラ」と同じ監督とは思えないようなセリフ。ほぼノープラン。具体的な指示をするでもなく、ダメ出しをし続ける庵野監督に対し、ネットでの反響は否定的な意見が多い。
 結局、満足いかなかったのだろう。OKの出たカットも本編では使われず、間に合わせでCGによる戦闘となる。予算と時間の都合からか遠目のカットでちょこまかとライダーやオーグが殴り合うといった仕上がり。派手なアクションを期待する向きにはしょぼさの残る、不満が挙がる結果となった。

 「シン・ウルトラマン」でも話を詰め込み過ぎてストーリー展開が急すぎるとか、人物の掘り下げが足りないなどの意見があったものの、メフィラスの台詞を含めてここまで荒れた感じはなかった。しかし今回の「シン・仮面ライダー」では庵野監督への評価はガタ落ち。
 特に田淵アクション監督とのコミュニケーション不足から来る現場のギスギス感。悪意的にわざとそこだけを切り取って放送したか?前回の「シン・エヴァ」ドキュメントで庵野が自分よりほかを撮った方が面白いという台詞に対する当てつけか?
 相対的に樋口真嗣監督の評価が上がるというのは面白かったが。

 いずれにせよ庵野監督やそのブレーンたちが出来上がったドキュメンタリーについてノーチェックとは考えにい。これで良しとして放送され、ド素人からしても荒れるようなギスギス映像に対してもクレームを入れなかったということ。つまり狙ってこのドキュメンタリーは放送されたわけだが、宣伝的に良かったのか?
 上映当初に配られたライダーカードが終わり、現在はタグが配布されている。続いてライダーカード第二弾、第三弾と続くそうでリピーターを呼び寄せる施策が組まれている。
 公開初日に現れなかった庵野監督自ら大ヒット御礼挨拶の公演。BSでの放送だったドキュメントが地上波で放送。さらにラジオで特番が組まれるなど。本来はヒットを持続するための継続的な宣伝が行われるはずだったが、興行収入を見る限り観客動員につながっていない。

 個人的にも初日に観た記憶ではつまらなかったし、この結果も仕方あるまいと思う。
 しかしあのドキュメンタリーにおける殺伐としたやり取り。しかし庵野監督がやりたかったことは実現できなかったという敗北の結果として、もう一度観直したくなる。我ながら悪趣味ではあるが。
 と言うことで、せっかくなので大ヒット御礼監督挨拶公演を見に行く。ドキュメンタリーや予定より悪い興行成績を踏まえて庵野監督が何を喋るのかが気になった。

 舞台挨拶は案の定というか予定通りには進まず。司会は急遽庵野監督自ら行う。結果、役者陣へのプレッシャーとなったか、お行儀の良いコメントしか出ない。まあ彼らも舞台を壊すようなことはしないわな。
 続編への展望という所で監督が嬉々として構想を語り出し、本当は二部作でやりたかったという思いと、どうしてこんな早足でストーリーが進んだかの懺悔にも聞こえ寒々しい。
 サプライズとして蝶オーグのイメージボードがお披露目され、本編中も何か意味ありげに思っていたその佇まいが「弥勒菩薩」であったことがわかり、そういうことだったのかと合点した。
 また最期に一言「自分の作品は色々言われてしまう。しかしこうした機会を頂けて救われた気がします」といった言葉に胸が詰まった。良くも悪くも評判となる人であることは事実だ。才能があることは間違いないのだから。
 深々とお辞儀をする監督の胸中は純粋に御礼の気持ちで一杯だったのだろう。

 そんな感じで二度目の本編視聴。初見時に比べ次に何が起こるのか、どんなペースで話しが進むのか分かっているからか、細かい部分をじっくり見ることが出来た。特にドキュメンタリーを通して主人公役を務めた池谷壮亮の役者魂に好感しており、あらためて演技の素晴らしさに気付けた。
 賛否ある戦闘シーンも改めて見て良かったと思う。ハチオーグ戦におけるアニメのコマ割り風の表現。広い工場を舞台にジャンプしながら殴り合う1号、2号ライダー戦。特に新機軸とは思えないけど、まあ考えて捻り出したんだなとは思った。最期の蝶オーグ戦も脚本通り泥臭い戦いだったわけで、狙い通りではある。
 ただしこれは二度目の鑑賞であり、庵野監督という偉大なクリエイターに対してひいき目で観た上での感想だが。

 本当はもっと昔風のライダーをやりたかったのだろう。それがプロモーション映像第一弾のオープニング再現だったが、否定的意見が思いの外多く、また興行側からも支持を得られなかったことによる路線変更。その落とし所がクランクイン時点では見極められなかったということ。そして出来上がった作品も観る者全員を納得させることは出来なかったということ。
 奇しくも公開してすぐにコメントした岡田斗司夫の台詞「もう人のためにではなく、自分のために撮りたいものを撮った方がいい」という言葉は正しかったのだなと再認識した。

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